
比エンタルピーとは、物質が持つエネルギーの状態を表す指標です。空調設備では、湿り空気1kgの乾き空気を基準に、空気が持つエネルギーを比エンタルピーとして扱います。
比エンタルピーは、冷却・加熱・加湿・除湿による空気の状態変化や、空調設備が処理する熱量を検討するときに利用します。湿り空気線図を読むうえでも重要な項目です。
比エンタルピーとは?
エンタルピーは、物質が持つエネルギーを表す熱力学的な量です。空調で扱う湿り空気の比エンタルピーは、通常、乾き空気1kgあたりのエンタルピーとして表します。
単位はkJ/kg(DA)です。「DA」は乾き空気(Dry Air)を意味します。湿り空気では、空気の温度だけでなく、水蒸気の量も比エンタルピーに影響します。
湿り空気の比エンタルピーに含まれるもの
湿り空気の比エンタルピーには、主に乾き空気の顕熱、水蒸気の顕熱、水蒸気の潜熱が関係します。
- 乾き空気の顕熱:空気の温度に関係するエネルギー
- 水蒸気の顕熱:水蒸気の温度に関係するエネルギー
- 水蒸気の潜熱:水蒸気が蒸発・凝縮するときに関係するエネルギー
そのため、温度が同じでも水蒸気量が異なれば、比エンタルピーも異なります。
比エンタルピーの単位
空調で使う湿り空気の比エンタルピーの代表的な単位は、kJ/kg(DA)です。これは、乾き空気1kgあたりのエネルギーをキロジュールで表したものです。
湿り空気線図では、比エンタルピーの線が斜めに描かれていることが一般的です。線図の形式によって表示方法が異なるため、凡例と単位を確認してください。
比エンタルピーの計算式
標準的な近似式の一例として、湿り空気の比エンタルピーは次の式で求められます。
h ≒ 1.006t + x(2501 + 1.86t)
- h:比エンタルピー(kJ/kg(DA))
- t:乾球温度(℃)
- x:含湿量(kg/kg(DA))
この式は、一般的な空調条件で使用される近似式です。含湿量をg/kg(DA)で扱う場合は、計算前にkg/kg(DA)へ換算する必要があります。
例えば、乾球温度25℃、含湿量0.010kg/kg(DA)の場合、比エンタルピーは次のように計算できます。
h ≒ 1.006 × 25 + 0.010 ×(2501 + 1.86 × 25)
h ≒ 25.15 + 25.48 = 約50.6kJ/kg(DA)
実際の設計計算では、採用する物性式や基準条件に合わせて計算してください。
比エンタルピーと顕熱・潜熱の関係
顕熱は温度変化に関係する熱、潜熱は水蒸気の状態変化などに関係する熱です。湿り空気の比エンタルピーは、これらの影響を合わせて空気のエネルギー状態を表します。
空調設備では、室温を下げるだけでなく、除湿によって水蒸気量も減らすことがあります。比エンタルピーを使うと、温度と水分量の両方が変化する空気の状態をまとめて評価できます。
湿り空気線図で比エンタルピーを読む方法
- 乾球温度と相対湿度などから、空気の状態点を求める
- 状態点を通る比エンタルピーの線を確認する
- 線図の目盛りから比エンタルピーを読み取る
- 冷却・加熱・加湿・除湿の前後で値を比較する
湿り空気線図では、比エンタルピーの線が湿球温度の線とほぼ平行に描かれる形式もあります。ただし、両者は同じ物理量ではありません。正確な値が必要な場合は、線図の目盛りや計算ツールを使用します。
詳しくは湿り空気線図とは?の記事を参照してください。
空調設備で比エンタルピーを利用する場面
冷却・除湿の評価
冷却コイルを通過する空気は、温度が下がるとともに、水蒸気が凝縮して含湿量が減る場合があります。コイルの入口と出口の比エンタルピーを比較することで、空気が失ったエネルギーを評価する手がかりになります。
外気処理の検討
外気を室内へ取り入れると、温度や湿度の状態に応じて空調負荷が発生します。外気と室内空気の比エンタルピーを比較すると、外気処理に必要なエネルギーを検討しやすくなります。
空調負荷の計算
空気の質量流量と比エンタルピーの差が分かれば、空気が運ぶ熱量を見積もることができます。概念的には、熱量は乾き空気の質量流量と比エンタルピー差の積で表せます。
実際の計算では、流量の単位や乾き空気基準を統一し、機器の運転条件も考慮します。
比エンタルピーを使うときの注意点
- 単位がkJ/kg(DA)など、乾き空気基準であることを確認する
- 含湿量の単位をkg/kg(DA)とg/kg(DA)で混同しない
- 比エンタルピーと湿球温度は関連するが、同じものではない
- 線図からの読み取りには誤差があるため、精密な計算では適切な計算式を使う
- 空調負荷の計算では、流量や入口・出口条件を正しく設定する
まとめ
比エンタルピーは、湿り空気の温度と水蒸気量を踏まえて、乾き空気1kgあたりのエネルギー状態を表す指標です。空調設備では、冷却・除湿、外気処理、空調負荷の検討などに利用されます。
湿り空気線図の読み方と比エンタルピーの意味を理解すると、空気の状態変化や空調設備の熱処理をより具体的に評価できます。

